高脂血症の話
|
高脂血症とは血液中のコレステロールか、または中性脂肪(トリグリセリド)が高い状態をいいます。
下に冠動脈疾患の予防、治療の観点からみた日本人のコレステロール値適正域、および、高コレステロール血症診断基準と、高トリグリセライド血症の診断基準(日本動脈硬化学会)を示します。 |
| 表1.コレステロールの基準値 |
|
血清総コレステロール
(mg/dl) |
LDL-コレステロール
(mg/dl) |
| 適正域 |
200未満 |
120未満 |
| 境界域 |
200〜219 |
120〜139 |
| 高コレステロール血症 |
220以上 |
140以上 |
|
表2. 高中性脂肪血症(高トリグリセリド血症)の診断基準 |
|
空腹時トリグリセリド(mg/dl) |
| 高トリグリセリド血症 |
150以上 |
|
| 注 中性脂肪は食後12時間以降に採血しないと値が高くなります。これは食事由来のカイロミクロンが混ざるためです。 |
さて第四次厚生省循環器疾患基礎調査(1990年)によると
日本人の血清コレステロール値の平均が男女別に報告されています。
| 年齢 |
男性(mg/dl) |
女性(mg/dl) |
30〜39歳
40〜49
50〜59
60〜69
70歳以上 |
196.4
204.2
200.0
197.2
198.6 |
185.9
200.0
218.0
222.6
214.9 |
2000年に第5次の調査が行われましたが、ほとんど変化していません。 |
日本動脈硬化学会が定めた治療ガイドラインではLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が160mg/dl以上が薬物療法の対象になり、また総コレステロールは240以上が薬物療法の対象になるようです。このことを考えると、60歳以上の女性の約30%近くが薬物治療の対象になる計算です。
女性は更年期以降になると女性ホルモンが減少するため、コレステロールの数値が上昇していきます。これは体の中で作られるコレステロールが増加するからです。前と比べ中性脂肪や卵をを摂取していないのに50歳くらいから、血清のコレステロールが上昇するのは実は生理的なことなのです。
女性ホルモンには体の中でコレステロールが作られるのを防ぐ働きがあります。女性が年をとると、コレステロールが増えるのはこういった事情があるのです。
コレステロールの材料であるアセチルCOAは、脂肪に限らず、でんぷんや砂糖など、あらゆるカロリーのあるものから作られます。何を食べても、生きている限りコレステロールは体の中で作られます。その量は食事から摂取される量の3倍から10倍程度と考えられています。女性ホルモンの変動はコレステロールが体内で作られる量を10%程度はすぐに変えてしまいます。つまり女性ホルモンが減れば、食事による努力などかき消されてしまいます。
では生理的な物に対し医学的な介入が必要でしょうか?現在、さまざまなことが言われています。
よく、心筋梗塞の発症率が高コレステロール血症の治療理由になります。
下にその根拠の1つとなるデーターをお示しします。
血清総コレステロール値と冠動脈疾患の相対危険度との関連(日本および米国の成績の比較)
(日本動脈硬化学会高脂血症診療ガイドライン検討委員会.動脈硬化 1997;25:1.) |
日本でもアメリカでも、コレステロールが上昇してくると、相対危険度の上昇に関しては、よく似通っています。しかし、日本とアメリカで違っているのは、アメリカの方が5倍も心筋梗塞などで亡くなる患者さんが多いのです。
つまり、アメリカに比べると、絶対危険度は、日本の場合には、同じようなコレステロールの値では五分の一の確率しかないことになります。
このように考えると、日本人でコレステロールを低下させることにあまり意味がないという人もいます。
しかし、厚生省の統計から当院でまとめたグラフで考えると、男子は総死亡に対しての心疾患の割合や脳疾患の割合が年齢でそう変わらないのに、女子では年齢とともに増加するのがわかります。
これは、このページの上の、、男女別、年齢別のコレステロールの上昇と妙に相関しているような気がするのです。
つまり、男子のコレステロール値は年齢で変化しないのに、女子ではコレステロールは50代から上昇することと、これに伴い心疾患や脳血管障害の割合が急激に増加するという2つの事実が、まったくの無関係ではないような気がします。
コレステロールが適正値であることがいいのは、当然みなさん分かっているのですが、薬を内服してまでコントロールしたくないという気持ちも、よくわかる話です。
しかし、薬を使わないで、コレステロールの低い隣人より、脳血管性の痴呆が早くきても、それはそれで耐えられないことです。
|
僕個人の意見としては、動脈硬化に伴う血栓というのはむしろ冠状動脈より脳の細小血管に起こりやすいのですから、薬を使ってでもコレステロールをある程度コントロールすることは心筋梗塞の予防というより、脳の血管の元気な80代、90代を維持していくためには大事な事の様におもわれます。ただし、過剰な治療はむしろ命を縮めかねない危険をはらんでいる。ということです。
ピンピンころりには、比較的若いうちからコレステロールに気を使う、食事でコントロールできなければ、お薬を内服することです。しかし、適正とはなにかが問われています。下に日本動脈硬化学会のガイドラインを示します。
|
|
日本動脈硬化学会2002年によるガイドライン
| 患者カテゴリー |
脂質管理目標値(mg/dl) |
その他の危険因子の管理 |
| |
冠動脈疾患* |
他の主要冠危険因子** |
TC |
LDL-C |
HDL-C |
TG |
高血圧 |
糖尿病 |
喫煙 |
| A |
なし |
0 |
<240 |
<160 |
≧40 |
<150 |
高血圧学会のガイドラインによる |
糖尿病学会のガイドラインによる |
禁煙 |
| B1 |
1 |
<220 |
<140 |
| B2 |
2 |
| B3 |
3 |
<200 |
<120 |
| B4 |
4以上 |
| C |
あり |
|
<180 |
<100 |
TC:総コレステロール、LDL-C:LDLコレステロール、HDL-C:HDLコレステロール、TG:トリグリセリド
*
冠動脈疾患とは、確定診断された心筋梗塞、狭心症とする。
**
LDL-C以外の主要冠危険因子:加齢(男性≧45歳、女性≧55歳)、高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、低HDL-C血症(<40 mg/dL)
- 原則としてLDL-C値で評価し、TC値は参考値とする。
- 脂質管理は先ずライフスタイルの改善から始める。
- 脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の合併はB4扱いとする。
- 糖尿病があれば他に危険因子がなくともB3とする。
- 家族性高コレステロール血症は別に考慮する。
|
|
このガイドラインは、批判が多いガイドラインです。
当院では、このガイドラインより沿った治療はしていません。。当院では200-220mg/dl程度の総コレステロール値を理想とし、基礎疾患の有無にかかわれず、これ以下のコントロールは目指しません。無治療で250mg/dl以下の人に対しては、頚動脈エコーで動脈硬化度が著しく高い人以外は、薬物治療はいたしません。
当院での中性脂肪の目標をどこに決めるのかは難しいのですが、おおむね300mg/dl以下を目指します。基準値の2倍です。
コレステロールは細胞膜やホルモンの重要な材料となり、決して悪者ではありません。過剰になりすぎることがいけないのであって、その基準は生のデーターを解析して製薬会社と関係のない人が決めるべきだと考えます。
コレステロールが高いといわれお悩みの方は、民間療法に頼らず、コレステロールが高くなる機序から考え、コントロールしましょう。
治るものではなく体質なのです。機序を説明できる医者は多くありません。興味がないのです。コレステロール治療の原則は知ることです。理解は決して簡単ではありませんが、コレステロールの治療はあわてる必要はまったくありません。本は少なくとも2−3冊は読みましょう。コレステロールの治療の矛盾を書いた本と、学会の立場から書いた本と2種類の本がよいと思います。(寺本先生は学会の偉い先生です。これを読むと、決して採血をして、はい、薬というような、単純なものではないとわかります。)
僕自身は、男性も、女性もコレステロールはある程度下げた方がよいと考えています。なぜなら、女性の脳梗塞や心筋梗塞の増加率が50-60代からは男性に比べてかなり高いからです。頚動脈エコーで観察していても、女性は閉経後に著しく動脈硬化が進む印象があります。これは女性ホルモンそのものの影響か、それとも女性ホルモンがなくなったことでコレステロールが高くなり、そのためなのかわかりませんが、僕は後の影響は結構大きいと考えています。下げすぎず、上げすぎない。このへんのさじ加減は結構難しい。コレステロールは高い方がいい、なんてことはない、と考えています。みんなが考えるより、ちょっと高めでも、学会のガイドラインより、ちょっと高めでもよいという考えです。
|
|
|
●黒川醫院トップへ●黒川醫院への行き方●いろいろな医療の話●免責事項●サイトマップ
|